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「戦争と図書館」

図書館九条の会世話人 大澤正雄

 

抵抗の図書館人 (2005年11月1日)


東京の芝増上寺境内にある「三康図書館」には、「憲秩紊本」と称する図書が多数所蔵されているとのことである。この本は戦時下の言論弾圧の中で、基本カードをかくして押収を免れた本だそうであるが(朝日新聞、昭和四十八年十一月二十二日付朝刊)、このことについて、若干説明を加えよう。三康図書館は、戦前、都民に親しまれた大橋図書館の蔵書を、戦後、大橋家から西武の堤氏に譲渡されたものであるといわれる。戦時中、大橋図書館の主事竹内善作氏は、同館に憲兵が来館し発禁図書の提出を強要しても、なにかと理由をつけて、金庫のような扉のある書庫へは一歩も入れなかったという話を、筆者は、評論家の神崎清氏からお聞きしたことがある。明治末、幸徳秋水の側近として革命運動に挺身した竹内氏なら、おそらくそのようなこともあり得ただろうと思われる。竹内氏は、大逆事件の一件書類を、「文盲の植木職人や、八百やのばあさん」に分散してあずけ、戦争を通じて守り通した図書館人である。
最近、筆者は、大橋図書館が昭和十四年九月に、同館の館報「トピックス」で、トマス・ハーディーの書誌を紹介しているのを発見して、なぜこの時点でハーディーを紹介しているのか不審に思い、岩波書店の『近代日本総合年表』を繰ったところ、その四月に文部省が、高等学校の副読本としてハーディーのものを使用することを禁止する通達を出しているのを発見し、なるほどと合点をしたのである(なお竹内善作氏については、『図書館評論』第七号にくわしい)。(『戦争と図書館』P.77-78)

検閲に抗して

 図書館に、特高や憲兵が出入して、「問題の図書」を没収しまた閲覧票を調査して利用者の思想調査を行ったことは、いくつかの「館史」に記録されているところである。問題なのは、前述したように、そのことを多くの図書館や図書館員たちが、当然のこととして受けとめ、この処置に疑いをさしはさまなかったことである。たとえ少数の館員たちが疑いをもったとしても、当時憲兵や特高の権力は絶大であり、これに反抗することは、およそ不可能に近かった。従って、竹内善作氏の主宰した私立大橋図書館が、最後まで、これらの圧力を回避しつつ、巧妙に、憲兵や特高から、発禁図書や指名図書を提出しなかったことは、稀有のことであった。また堺市立図書館長田島清氏が、憲兵による『日本地理風俗大系』の提出を拒否したことも、驚くべき勇気であった。氏は述べている。

そのころ、津田左右吉の『古事記日本書紀の新研究』が不敬罪で有罪と定ったというニュースが入り、私に大きな衝撃をあたえた。市立図書館にもさっそく警官がやってきて、津田氏の著書を押収して帰った。それのみではない。金岡に駐屯していた憲兵隊の上等兵か伍長かがやってきて、『日本地理風俗大系』を閲覧し、こういう地理文献は防諜上害があるから押収すると言うではないか。私はただちに憲兵の申出を拒否して、図書館の文献を防諜上公開してはならぬなどといった間題は一憲兵の云々すべきことにあらず、必要とあらば陸軍大臣と文部大臣の間で交渉の上決すべきものである。当方としては文部大臣の指令がないかぎり貴官の命に服することはできぬと主張した。憲兵は不満そうな顔をしたが、強いてどうしようとも言わずに立ち去った。
『図書館を生きる─若い図書館員のために』P.78-79

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