「戦争と図書館」
図書館九条の会世話人 大澤正雄
◇図書館令改正のねらい (2005年7月1日)
改正の要点
昭和八(一九三三)年は、戦前の歴史上数々の重要な事件が起きた年であるが、図書館史の上でも、重要な年であった。
この年、図書館法制史上画期的だといわれた「図書館令」の改正があった。
図書館令は、明治三十二年に制定された図書館法規であるが、この年の改正はかつてない大幅の改正であつた。
改正の要点は、四点にしぼられる。第一点は、第一条で「図書館ハ図書記録ノ類ヲ蒐集保存シテ公衆ノ閲覧ニ供シ其ノ教養及学術研究ニ資スルヲ以テ目的トス」と規定し、第二項で「図書館ハ社会教育ニ関シ附帯施設ヲ為スコトヲ得」と規定したことである。
ここで「附帯施設」と称してしいるのは、いまでいう図書館で行う社会教育的な集会活動と考えてよい。
例えば、読書会、講演会、展示会、掲示教育に類するものである。従来も、実際には各図書館で講演会など種々集会が行われていたが、法規上明文化されたことが特筆すべきことであった。
しかし、規定の仕方に問題があり、したがって解釈上、後述するように、石川県立図書館長中田邦造氏と文部省の松尾友雄氏との間に『図書館雑誌』上で大論争が行われた。
第二点は、図書館には館長並びに司書を置くこととし、職員制度を「整備」したことであり、第三点は、それまで公立図書館のみを認可制としていたのを、私立図書館を含め一切の図書館を、認可制にしたことである。
そして第四点は、中央図書館制度を新設したことである。
改正の重要な眼目は、第三点の私立図書館の認可制と、第四点の中央図書館制度の問題であった。このことについて簡単に説明しておこう。
図書館についての法規は、わが国では明治五(一八七二)年、文部省が湯島に「書籍館」を設けた関係もあり、比較的早い時期に、教育法令中に規定化されている。
明治十二年の教育令の第一条には、「全国ノ教育事務ハ文部卿之ヲ統摂ス。故ニ学校幼稚園書籍館等ハ公立私立ノ別ナク皆文部卿ノ監督内ニアルベシ」と規定され、その後明治十二年の改正教育令を経て、明治三十二(一八八九)年、単独法規である「図書館令」が制定され、昭和八年の大改正まで三回ほど改正されたが、その中心点は認可の問題であった。
昭和八年の改正以前の認可制度をみると、公立図書館については認可は必要とされたが、私立図書館については、「私立図書館ハ地方長官二開申スベシ」とあり、認可は必要としなかった。
昭和八年の認可制の理由について、当時の文部省松尾長造成人教育課長は、『図書館雑誌』上でつぎのように説明した。
「新令は公立私立を問はず一様に認可制を採ることとなった。
私立図書館中には堂々公立図書館を凌ぐものもあるけれども、概ね貧弱なものが多く、動もすれば図書館の美名に副はぬものさへあるやうな有様で、私立図書館を放任することにより、延いて公立図書館の質を低下せしめ、其価値を疑はしむる虞があるに至ったので、今般の改正をみたわけである」(松尾長造「改正図書館法規の重点」『図書館雑誌』昭和八年十月号)
一般に施設の認可は、施設の一定水準を保つために必要であるといわれるが、図書館のような国民の自己教育の機関である文化施設には、不必要であると思われる。
現在、住民の自主的な活動により、多くの文庫がつくられ、しかもこれらの文庫が、公共図書館にも劣らない活動を行い、またあるものは地域図書館へと発展している実状をみるならば、認可制度はむしろ有害無益といえるだろう。
その意味では、戦後制定された現行図書館法が認可制度を廃止したのは賢明であり、「認可制度をめぐるその時その時の行政の流れから超然たり得るのである」と西崎氏の『図書館法』が述べているのには全く同感である。
私設図書館に多い「不穏図書」
それならばなぜ、昭和八年の時点で、すべての図書館を認可制にしたのか。タテマエは、たしかに松尾長造成人教育課長の述べる通りであったかもしれないがホンネは別にあったのではないか。
それを解く一つの鍵が、資料61の「私設図書館に多い不穏な書物」の新聞記事である。
〔61〕私設図書館に多い不穏な書物
全国各府県の地方検事局では予てより左傾分子検挙に関係して青年会報、村報類の刊行に対しても注意を怠らず、不穏に亘るものはどしどし発行禁止を行っているが、最近厳重たる調査の結果、更に他の重大なる理由として青年会その他私設図書館の蔵書に左傾的読み物が極めて多いことが判明するに至り、一層取締を厳にすることになった。
即ちこれらの図書館の殆どは小学校内に備え付けられ教員が之を管理しているもので、中に全然左傾的図書のみを備えているという尖鋭極まるものもあり、斯うしたことが教員や青年の思想赤化に重大たる役割を演じて来たものであることは今や明瞭となり、刻下の問題として先ず之が整理改善をなす必要に迫られているので、各府県立図書館長が親しく農村の図書館行脚を行い健全な読みものの貸出しを行う事となり、此点から思想善導計画の必要が期せずして一斉に叫ばれるに至った。
(三月二十八日、東京夕刊新聞)
(『戦争と図書館』P30〜32、173)
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